物理

高校物理の公式の理解の方法〜帰納的思考と演繹的思考〜

2016/12/25

物理は覚えることが少なく、理解が重要と言われています。

本当にその通りで他の理系科目の生物、地学、化学と比べると圧倒的に暗記する量は少ないです。

なので、コツさえつかんでしまえば、高得点につなげやすい科目であると僕は考えています。

 

物理というのは様々な事象を同一視して一つのものとして表現しようとする抽象的な学問です。

 

物理を苦手とする人が多いのはこれのせいです。

物理は、様々な事象(現実で起こっている多くの出来事)をたった一つの公式や理論で片付けてしまっているわけです。

その公式が「さあこれが物理現象の法則だ」と主張したところで、物理が苦手な人は公式が何を表しているのかいまいち理解のしようがないのです。

 

ではどうやってその公式や理論を理解するか。

理解する方法として、2つのアプローチの仕方があります。

今回の記事では、物理を学ぶ際に重要な2つの思考法を紹介していきます。

一つの公式をもとにして、できるだけ分かりやすく書きました。

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1.帰納的思考

物理が苦手なうちは、例題を解くことによって理解していくのがオススメです。

しかし、ここで注意して欲しいのが、問題が解けることが目標なのではなく、問題を解くことで公式を理解することが目標なのです。

 

ここを履き違えたままでは物理はできるようになりません。

 

公式や問題の解法パターンを理解できないと、値が少し変わったり、応用問題になったりすると、途端に分からなくなってしまいます。

 

同じ分野の問題を解き、共通する点を見つけ出していくと、ふと「ああ、この公式はそういう意味だったのか」と理解することができます。

このような考え方を少し難しい言葉で「帰納的思考」と言います。

 

物理が苦手な人はこの帰納的思考を使って理解していくのがいいでしょう。

 

分かりやすいように少し例を見てみましょう。

 

例 等加速度運動

等加速度運動をする物体には次の公式が成り立ちます。

$$x=v_0t+\frac{1}{2}at^2$$

x:物体の変位(位置)

v0:物体の初期速度

a:物体の加速度

t:経過時間

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この公式を見ても最初はさっぱり分かりませんよね。

では、例題を見ていきます。

 

例題

水平面上をボールが転がっている。

ある時刻でボールは速度10m/sで転がっていた。

その時刻から5秒間ボールに一定の追い風を与えたところ、一定の加速度2m/s2で運動した。

ボールはその5秒間でどれだけ進んだでしょう。

 

この問題を公式に当てはめて考えます。

求めるのは、変位x(物体が進んだ距離)です。

 

それぞれの条件より、

$$v_0=10$$

$$a=2$$

$$t=5$$

となるので(単位は省略)、

$$x=v_0t+\frac{1}{2}at^2$$

$$=10\cdot 5+\frac{1}{2}\cdot 2 \cdot 5^2$$

$$=50+25=75(m)$$

よって、ボールは5秒間で75m進んだと分かります。

 

このように実際に問題を解いてみると、イメージがしやすく、分かりやすくなります。

しかし、公式の表す意味はまだ曖昧なままです。

 

では、今の例題をよく見てみましょう。

ボールは5秒間で75m進んだわけですが、もし風によって加速度が与えられなかったら、等速度運動をして速度10m/sで5秒間進むことになります。

ということは、10×5=50mしか進まないわけです。

つまり、残りの25mは加速度の影響で増えた距離というわけです。

そのように速度による距離加速度による距離を別々に足しあわせたことを表現しているのが公式

$$x= \color{green}{ v_0t} +\color{red}{ \frac{1}{2}at^2}$$

なのです。

 

では、例題の値を少し変えてその様子を観察してみましょう。

まず初期速度が2倍の20m/sになった場合を考えてみましょう。

同様に公式に当てはめて計算すると、

$$x= \color{green}{v_0t}+\color{red}{\frac{1}{2}at^2}$$

$$= \color{green}{20\cdot 5}+\color{red}{\frac{1}{2}\cdot 2 \cdot 5^2}$$

$$= \color{green}{100}+\color{red}{25}=125(m)$$

3行目に注目してください。

50+25=75が100+25=125になっています。

速度が2倍になったので速度による変位も2倍になり、加速度による変位は変わらず25のままであることが分かります。

 

次に加速度が2倍の4m/s2になった場合を見てみましょう。

$$x= \color{green}{v_0t}+\color{red}{\frac{1}{2}at^2}$$

$$= \color{green}{10\cdot 5}+\color{red}{\frac{1}{2}\cdot 4 \cdot 5^2}$$

$$= \color{green}{50}+\color{red}{50}=100(m)$$

今度は、50+25=75が50+50=100になってます。

加速度が2倍になったので速度による変位は変わらず、加速度による変位は2倍になっています。

 

最後に時間が2倍の10sになった場合です。

$$x= \color{green}{v_0t}+\color{red}{\frac{1}{2}at^2}$$

$$= \color{green}{10\cdot 10}+\color{red}{\frac{1}{2}\cdot 2 \cdot 10^2}$$

$$= \color{green}{100}+\color{red}{100}=200(m)$$

50+25=75が100+100=200になってます。

経過時間が2倍になると、速度による変位は2倍になり、加速度による変位は4倍になります。

これは、公式を見れば明らかですよね。

速度の方にはtが1つ分、加速度の方にはtが2つ分、かけられていますから。

 

物理が得意な人は公式を見た瞬間にそんなの当たり前じゃないかと気づきます。

しかし、苦手な人は公式を見てもよく分からないはずです。

そこで、まずはこのように様々な条件で公式を使ってみて、公式が表すおおよその意味を把握することが大事だと思います。

 

どうですか?

例を見て、構造をつかむことができれば、公式の表す意味も「なんとなく」理解できますよね?

物理が苦手なうちは、このような小さな理解を積み重ねていくことが大事だと思います。

公式の表す意味をおおよそ理解できれば、公式がさっぱり分からないという状況からは抜け出せて、うまく公式を運用できるようになるはずです。

帰納的思考のまとめ

  • 具体的な例題を解くことで公式や理論の表すおおよその意味が理解できる
  • 公式を使うだけではなく、その公式がどういう構造をしているのかに気を配る

 

2.演繹的思考

理解のためのアプローチとして帰納的思考を紹介しました。

しかし、これでは公式の本質を理解したとは言えません。

 

確かに公式を使って問題が解けたかもしれません。

でも、なぜその公式が成り立つのかは理解できていませんよね。

 

公式の本質を理解するためには、公式を既知の(すでに知っている)理論から論理的に導かなくてはいけません。

このような考え方を「演繹的思考」と言います。

 

では早速、例として先ほどの公式を演繹的思考で理解してみましょうか。

 

例 等加速度運動

次のような公式(これからは変位の公式と呼びます)でしたね。

$$x=v_0t+\frac{1}{2}at^2$$

x:物体の変位(位置)

v0:物体の初期速度

a:物体の加速度

t:経過時間

 

 

これらを次の二つの既知の概念から論理的に導いてみましょう。

ようは「証明」ですね。

 

①等加速度運動をする物体には、次のような公式(速度の公式と呼びます)が成り立つ。

$$v=v_0+at$$

v:物体の速度

v0:物体の初期速度

a:物体の加速度

②v-tグラフにおいて、グラフと横軸の間の面積は変位xを表す

 

この2つです。

証明には関係ありませんが、一様この2つについて軽く説明をします。

 

①「速度の公式」の解説

$$v=v_0+at$$

これは、加速度の定義と見ることもできます。

加速度は、1秒(単位時間)あたりにどれだけ速度が上昇するかを表しています。

つまり、加速度が2なら、1秒あたりに速度が2だけ上昇します。(つまり3秒経てば速度が6上昇、5秒経てば10上昇する。)

 

ということで、(ある時刻が経過した後の)「物体の速度v」は、「物体の初期速度v0」に上昇した分の「加速度aと経過時間tの積」を足したものになるわけです。

(この説明で分からない場合は、やはり帰納的思考によって理解するのがいいでしょう。または、これから変位の公式の証明で使うグラフを見るとイメージしやすくなるかも。)

 

②「v-tグラフの面積は変位を表す」の解説

v-tグラフとは、横軸を時間t、縦軸を速度vとしたグラフのことです。

車を例として考えてみましょうか。

車が一定の速度v=20m/s(72km/h)で5秒間走る時の総距離を考えましょう。

もちろん総距離は、(距離)=(速度)×(経過時間)なので

$$20 \times 5=100(m)$$

です。

では次にv-tグラフを用いて距離を求めてみましょう。

時間を測りだした時刻を0としてv-tグラフを書くと次のようになります。

グラフ: v(t)=20(定義域:0≦t≦5)

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斜線で表した面積S(5秒間でのグラフと横軸の間の面積)は、縦幅が20、横幅が5の長方形なので、

$$S=20\times5=100$$

となり、確かに車の変位(総距離)を表していることが分かります。

 

このように、v-tグラフにおいて、ある時間の幅におけるグラフと横軸の間の面積は、その時間内の物体の変位と等しいのです。

(ちなみに、今のような理解は帰納的理解です。簡単な車の例を考えることで理論が表すおおよその意味が伝わったかと思います。ちなみにこの理論を演繹的に証明するには、おそらく積分の概念が必要になってくると思います。)

 

変位の公式の証明

遅くなりました。それでは、本命である変位の公式を証明しましょう。

 

(証明)

変位の公式

$$x=v_0t+\frac{1}{2}at^2$$

 

物体が等加速度運動(一定の加速度aで運動)している場合を考えます。

まずは、①速度の公式

$$v=v_0+at$$

を使いましょう。

これをv-tグラフで表してみます。

 

お馴染みの一次関数y=ax+bと同じですね。

変数y→速度v、変数x→経過時間t、傾きa→加速度a、切片b→初期速度v0

にそれぞれ変わっただけです。

ということで、次のようなグラフになります。

グラフ: v(t)=v0+at(定義域:0≦t≦t)

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そして、②の理論「v-tグラフの面積は変位」を使いましょう。

 

t秒間物体が動いた時を考えましょう。

物体の初速度はv0です。

そして加速度はaです。

 

その時、変位は斜線で表した面積と等しいわけです。

その部分をよく見ると、下の部分が長方形で、上の部分が直角三角形であることが分かります。

そこで長方形の面積S1と直角三角形の面積S2に分けて後から足すことを考えます。

 

あとは簡単です。

それぞれ計算すると、

長方形の面積S1は図より

$$S_1=(縦)\cdot(横)$$

$$=v_0 \cdot t =v_0t$$

直角三角形の面積S2

$$S_2=\frac{1}{2}\cdot(底辺)\cdot(高さ)$$

$$=\frac{1}{2} \cdot t \cdot at=\frac{1}{2}at^2$$

 

となります。

よって変位はこの合計Sに等しいので

$$x=S=S_1+S_2=v_0t+\frac{1}{2}at^2$$

となり、これで確かに公式が正しいと証明されました。

(証明終わり)

 

どうでしょうか。

なかなかハードだったのではないでしょうか?

 

なぜハードに感じるのかというと、やたらと記号が多いからですね。

演繹的な思考は論理性を重要視するので、どうしても抽象的な話になってしまうんです。

 

でも、証明を一行一行丁寧に読んでいけば、必ず理解できるはずです。

長ったらしい証明になってしまいましたが、それは分かりづらいところを省略せずに書いたからです。

物理や数学が苦手な人でもちゃんと理解できるように仕上げたつもりです(^^;)

 

さて、証明した変位の公式をもう一度見てみましょう。

$$x=v_0t+\frac{1}{2}at^2$$

これは、長方形の面積S1と直角三角形の面積S2に分けて求めたわけですが、実はこれ、証明の前にもやっていたんです。

そう、帰納的思考の例で取り上げました。

速度による変位」と「加速度による変位」ですね。

 

帰納的思考によって見えた規則性はだいたいこうやって論理的な演繹的思考によって裏付けされるんです。

なので、演繹的思考が難しい人は最初は帰納的思考で十分だと言えます。

問題を解くだけならさほど影響しませんからね。

 

演繹的思考のまとめ

  • 公式や理論の本質がわかる
  • 抽象的で少々とっつきにくい

 

全体のまとめ

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いかがでしたでしょうか。

今回の記事では、物理を学ぶ際に重要な2つの思考法について書きました。

そして、一つの例として変位の公式をあげました。

これは高校物理の序盤の方で出てくるにも関わらず案外理解が難しい公式ですよね。

物理に慣れないうちは具体的に帰納的思考で、慣れてきたら論理的に演繹的思考で理解しちゃいましょう。

 

はっきり言って物理は難しい学問です。

しかし、一度理解して自分の中に落とし込めれば、スイスイ問題が解ける教科でもあります。

ぜひ自分の得意なアプローチを見つけて、バンバン理解していきましょう。

 

今回の記事では、授業ではあまり教えてくれない細かいところまでこだわって説明しました。

皆さまが、物理の理解の仕方についてこの記事を通して何か得るものがあれば嬉しいです。

 

最後にちょっとしたおまけを書きました。

興味ある人は読んで行ってね。

 

では、ひとまずこれで終わりにします。

またね。

 

 

おまけ(ちょっと発展)

くどいようですが、もう一度この公式を見てみましょう。

変位の公式

$$x=v_0t+\frac{1}{2}at^2$$

 

この公式はよく考える人ほど最初は疑問に思うはずです。

なぜ

$$x=v_0t+at^2$$

ではなく、

$$x=v_0t+\frac{1}{2}at^2$$

なのかと。

 

というのも、次の2つの公式があるからです。

$$v=v_0+at$$

$$x=vt$$

 

1つ目は「速度の公式」で、2つ目は「(距離)=(速度)×(経過時間)の公式(みはじの公式と呼びます)」ですね。

1つ目の公式を2つ目の公式に代入してみましょう。

$$x=vt$$

$$=(v_0+at)t$$

$$=v_0t+at^2$$

よって

$$x=v_0t+at^2$$

おや、偽物の変位の公式ができてしまいました。

 

なぜこのような結果になってしまったか分かりますか?

それは、公式を使う条件が違ったからです。

 

速度の公式

$$v=v_0+at$$

は等加速度運動(加速度a)をしている時のみ使える公式で、

みはじの公式

$$x=vt$$

は等速度運動(加速度a=0)をしている時のみ使える公式です。

 

そして、変位の公式

$$x=v_0t+\frac{1}{2}at^2$$

は等加速度運動(加速度a)をしている時のみ使える公式です。

 

なので、等加速度運動では使えないはずのみはじの公式を使ってしまったせいで偽物の変位の公式

$$x=v_0t+at^2$$

ができてしまったのです。

 

このように、物理では、公式の後ろに隠れがちな「公式を使用する条件」にも気をつけましょう。(理論も同様)

 

さて、では本物の変位の公式の係数の1/2はどこから来たのでしょう。

それは先程のv-tグラフを見れば分かります。

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1/2は三角形の面積の公式「1/2×(底辺)×(高さ)」のものだったんですね。

ちなみに偽物の変位の公式は、横幅t、縦幅v0+atの長方形の面積になります。

 

つまり、偽物の公式では、速度vが傾きaで上昇していく過程を無視しているわけです。

本物の公式は上昇していく途中の速度を考慮したものなので、1/2がでてくるのです。

(証明の際この途中の速度を考えるのが厄介なので、簡単にするために②「v-tグラフの面積は変位」の理論を使っています。)

 

変位の公式一つにはこれだけの意味が詰まっていたんです。

公式は1行ですが、今回の記事は数百行です。

それだけ物理を深く理解するのは大変だということです。

 

ぜひ受験生の読者さんには、物理の勉強中に疑問に思った点をたまーに深く調べてもらって「なるほどー、面白い」と思ってもらいたいです。

本当にたまーにですよ(笑)

こんなのを一つの公式ごとにやっていては時間を使いすぎです。

僕も変位の公式でなんで1/2が出てくるのかなーと思い、なんとなく調べていたらここまで理解できちゃっただけです。

 

ほどほどに自分がある程度納得するまで考えて、自分なりの解釈を持つようにしましょう。

物理では自分の世界観を作ることが大事です。

それでは今度こそ終わりにします。

またね。